講評

五十嵐太郎氏講評

-モンスター展2016

今年は日本のモンスター史において画期的な年となった。ポケモンGOと『シン・ゴジラ』が登場したからだ。しばらく巨額の資本によって、ハリウッド映画に日本のお株である怪獣がとられていたから、その独自性によって、まさに取り戻したと言えるかもしれない。前者はかわいいモンスター、後者は原爆や災害の比喩としての畏怖すべき怪獣のシンボルである。さて、こうした記念すべき年に開催された第四回のモンスター展は、ジャンルの異種混淆の度合いをさらに深め、アートやデザインに加え、本格的な建築作品も参入した。そもそも怪獣自体がキメラ的な存在なのだが、様々な分野から応募できることも、モンスター展の大きな特徴であることに改めて気づかされた。また全体的に作品のクオリティがかなり高くなったことも特筆される。とくに様式的な怪獣の造形を基本としたものは目を見張る技術力を感じさせるものが少なくい。一方で新しい解釈によって、怪獣的なものの領野を開拓しようとする意欲作も目立ち。好感をもった。そして継続して参加している作家は、その世界観がより深く理解できるようになった。なお、今回からオープニングの後に審査員と作家が本音で話せる懇親会の場を設けたこともあって、作品の評価をめぐってより深く議論できるようになったのは、とても良かったように思う。

-モンスター展2014

多くの日本人にとって、怪獣は美術館よりも早く、最初に目にするアート的な造形だろう。2014年は、ウルトラマンに関わった、大がかりな成田亨展が富山県立近代美術館で開催されるなど、近年はアートとしての価値も認められるようになった。MONSTER展では、アートやデザインの領域から様々な怪獣への想像力が集まる。やはり、異なるモノを接合させるキメラ的な造形が多いなかで、今回の最優秀となった宮崎宏康の作品はまったく違うアプローチが光っていた。怪獣の咆哮や民衆の叫び声の文字を形象化していたからである。姿なき怪獣という意味では、怪獣が画面に登場しない映画『大怪獣東京に現わる』の奇策を想起させる。また日本特有の怪獣と日本特有のオノマトペの組み合わせも興味深い。2014年はゴジラがアメリカに上陸し、映画が大成功した年にもなったが、MONSTER展も本家に負けずと、ニューヨーク進出を継続しており、今後が楽しみである。

五十嵐 太郎[東北大学大学院工学研究科教授(都市・建築学)]
1967年フランス・パリ生まれ。2008年 ヴエネツィアビエンナーレ国際建築展では日本館コミッショナー、2007年リスボン建築トリエンナーレでは日本セクションのキュレータ、そしてあいちトリエンナーレ2013では芸術監督を務める。また現在、世界20ヶ所を巡回中の「311―東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展の監修を行った。