岡部 仁美

翹首(ぎょうしゅ)

Title:翹首(ぎょうしゅ)

Material:木製パネル、天竺綿布、顔料、岩絵具

この絵に登場するのは、ヒキガエルの形をした日本神話の多邇具久(たにぐく)で、傀儡子(くぐつ)という説がある。そして下の蛇たちは八岐大蛇である。中央に小さく描かれた、勾玉は透明で純粋であり、弱々しくもあるが、闇の中で光続ける強い生命力を持っている。
その生命の誕生を我が物にしようと待ち構える多邇具久と八岐大蛇。
それは、現在の世の中の状況を表している。コロナ禍における不自由な生活と、今までにない自然災害、先の見えない未来への不安。
この勾玉を描き込んだ時、真ん中の勾玉の左側が欠けている「上弦の月」をイメージした。
この時期は、植物の葉や根、茎の成長が最も盛んになる。新月から満月に膨らむイメージから、古来の人たちは「成長の時間」と捉えた。
まさに成長期の子供たち、これから生まれようとしている子たちは、力を秘めた勾玉そのものである。

岡部仁美

Artist:岡部 仁美

1993 埼玉県東松山市生まれ
2016 京都造形芸術大学大学院修士課程 ペインティング領域に入学
2018 京都造形芸術大学大学院修了

・展示歴
2016 「大山佳織 × 岡部仁美 二人展~水鏡~」 ギャラリー恵風 / 京都
2018「日本画グループ展・京都造形芸術大学~糸を手繰るように~」
  鵬休堂ギャラリー / 京都 、阪神梅田本店 / 大阪
   「画心展」 佐藤美術館 / 東京
   「画心展小品展」 東京九段耀画廊 / 東京
2020 「月刊美術・美術新人賞デビュー 2020」 入選 フジイ画廊 / 東京

今まで自然と人間をテーマにした作品を制作してきたが、台風19号がきっかけで、より強くそれを意識して描くようになった。

外は警告のアナウンスが鳴り響き、私は不安に駆られながら窓から様子を覗き込んでいた。 田んぼや畑に囲まれ、幾つかの川が流れる私の故郷は、川が決壊したら沢山の家が浸水する事になる。 私自身の家も川からそう遠くない。水かさが増すごとに、避難を促す放送が叫び声へと変わっていった。 よくなぜ避難をしないのか、等とメディアや SNS 上で言われるが、まさか自分達の住む場所が避難対象になるとは思わず、何時逃げるか、かえって移動したことで危険はないのか、家にいた方が安心ではないか、いざ自分がそういった立場に追い込まれると、どのような行動を取るべきか難しく思えた。
後に市内で多くの家の被害や被災者が出たとの情報を得た。

自然と共に暮らす以上、自然をよく理解し、対話していく事が必要である。これからも私達が自然とどう向き合って生きていくかという問いを、絵で表現できたらと思う。