田沼 翠

火宅

和紙、デジタルプリント、裂地、金インク、描表具

普遍的な苦しみからの開放打開策を示す法華経。特に法華七喩は、今を生きる私達にも通じるものがある。この作品は、「三車火宅」の一場面を現代に照らして描いた。

モチーフは、大火に見舞われ倒壊するビル。
魔除の饕餮文様を全身に刻んだモンスター、そして五色の雲。

「饕餮」とは、神話上の怪物である。饕餮の「饕」は財産を貪る「餮」は飲食を貪るの意。「全てを貪る猛獣」というイメージから転じて「魔をも喰らう」=「魔除」の意味を持つようになったといわれる。

火災で崩落する建物は、悩み多き社会の象徴であり、
そこにいる私達は日々様々な問題に翻弄されている。

今、火中の私達の目前を過るものは、五色の雲に飛び乗るモンスター。

だが、本来吉兆を示す「五色の雲」は
色彩を失いモノクロのデジタル画素(pixel)で構成されている。
これは新世界への乗り物か?それとも死の迎えか?

この先に、どんな未来があるのだろうか?彼らが去った後に残るものは何だろうか?
いつまでも消えない火宅の炎とは何か?

私達をここではない何処かへそしてより良い未来へ導くものはあるのだろうか?

田沼 翠 Midori Tanuma