uki

怪獣の一欠片
亜鉛フェンス

「怪獣とは人間の想像力の膨大な蓄積である」

僕らは、たくさんの人々の思考や感情が蓄積されたフェンス(日常的に目にしている沖縄の米軍基地を囲むそれ)と段階を踏みながら向き合った。そこから生まれたイメージに向かって、何も考えず、体力が尽きるまでハンマーで叩き続けた。

その塊は僕らの想像力がつまった「怪獣の一欠片」となり、あなたに対話を求めているように見える。


1. 僕らの島で聞こえる“Kaiju”の声

時折ゴゴゴゴゴォォォーと内臓に直接響くような轟音が聞こえる。耳を塞いでも余裕で聞こえるその音にも驚かない。それは日常の中に当たり前にやってくる。だからって何をする訳でもなく、ただ空白の時が一瞬過ぎて、そしてまた生活の続きに戻る。僕らが島に来た当初に感じていた違和感や苛立ちや虚無感は、月日と共にだんだんと薄れていった。でもそれは確かにある。たった一滴の水が水面に落ちても、そこには確かに波紋が現れるように、それは己の心を確実に揺らしている。巨大すぎて見えなくなった怪獣は、この美しいサンゴ礁に囲まれた南の島に、確実に存在するのだ。さあ、今その正体を暴こう。


2. 巨大な怪獣の影

僕らは怪獣の連なる鱗を見つけた。それは僕らの島の至る所に点在し、〈何か〉を取り囲むように連なっている。無機質な金属の糸が網目状に絡み合い、高さ3メートル、横はずっと先が見えないほど続く「フェンス」だった。フェンスはそれ自身が境界となり〈僕ら〉と〈何か〉を分けている。動物や植物は無関係とばかりにその間をすり抜けたり、上を飛んで自由に往来している。しかし僕らはフェンス越しに見ることのできるその場所に入る事が出来ない。どうやら僕らに許されたのは、この「フェンス」という境界と向き合う事だけであるらしい。


3. 怪獣パパラッチ

まず僕らは比較的広大な〈何か〉の外周をフェンスに沿って散策した。時々カメラのシャッターを切りながら。フェンスと自分との時間を切り撮り、思考しながらまた問いかけながら三日かけて一周した。その中でもっと本質的に「フェンス」を理解したい、己のものにしたい、所有したいという気持ちが湧き上がってきた。


4. 共同生活で肥大化する感情

そこでホームセンターで怪獣の鱗と最も近い「フェンス」を選んで購入した。くるくる規則的に巻かれたそのフェンスは縦1メートル横2メートル、重さ6キロ、税込3,169円。新品なので錆や使用感は足りないが、それでも十分に怪獣のそれと近い存在感や雰囲気を感じた。それからuの家で三日ほどこのフェンスと寝食を共にした。眺める、触る、踏む、叩く、被る、寝るなど様々な方法で対話という実験を試みた。対話を重ねるごとにフェンスはその存在感を大きくし、段々とそれは威圧感や恐怖といった不快な感じに変わっていった。また同時期に、本来境界であるはずのフェンスを変形させて空間を作り出すという漠然としたイメージが浮かんた。


5. 怪獣を咀嚼する

そして僕らは話し合い「フェンス」を文字通り小さくしよう、僕らの手で変形させようと決めた。目的は怪獣を理解し飲み込むためであり、これまでの思考と行動から生じた衝動的な流れに乗るためである。まずそれを腕力の限り曲げた。続けて上に乗ったり跳ねたりを繰り返し己の身体でできる限り小さくした。それからハンマーで叩いて更に小さくしていった。手に伝わる振動を感じ、響く音を聞きながら体力が尽きるまで叩き続けた。 最終的に「フェンス」はぐにゃぐにゃに曲がり、金属の密度が高く、内部に無数の小さな空間を持つ、一つの丸い塊となった。


6. 塊が意味するもの

僕らは”怪獣”の正体を知る為に行動してきた。しかし、そうやって作り上げたものは、異様な存在感を纏っている。冷たさ、重さ、乱雑さなど様々なものが凝縮して一つの物体になったような、不思議な力のある物体だ。 僕らはこれこそが“怪獣”なのではないかと思う。一つの明瞭な答えがある訳ではなく集合体。つまり人間の思考、感情そして想像力の蓄積こそが“怪獣”である。僕らはこれまでの活動を経て、それらの蓄積を「フェンス」に叩き込んだ。そうやって『怪獣の一欠片』を作り出したのだ。


7. 怪獣とは

沖縄にある普天間基地は、怪獣であると言えるかもしれない。何故なら、それはみんなにとって分かりやすい存在であり、もうすでにイメージが固定化されてしまっているからである。しかし、怪獣はもっと身近に潜んでいるのではないだろうか。
騙されてはいけない。僕らは怪獣を「見極める」必要がある。本当の“怪獣”の存在を。
この塊は、あなたに怪獣を「見極める」必要性を訴える存在になり得るのではないかと思う。

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u:大久保卯月 Uzuki Okubo
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【経歴】
1995 福岡県生まれ 
2016 合同会社旅人エージェント 代表就任 
福岡にて旅人に特化した人材紹介を中心とした事業を展開 
2017 合同会社旅人エージェント 譲渡・解散 
2018 Shigatsu 開業
映像や写真を用いた広告デザインと舞台を中心とした事業を展開 
2019 琉球大学 理学部 海洋自然科学科化学系 4年在籍

【主な活動】
〈グループ展〉
2018 「BUDS2」 stock room galley koza 沖縄

〈舞台出演〉 
2018 「ライン川 音の絵本」 宜野座村文化センターがらまんホール 沖縄 
2017 「永遠の1秒」 沖縄市民小劇場あしびなー 沖縄 
2015 「第31回琉球大学英語劇Foot Loose」 宜野湾市民会館第ホール 沖縄 
〈舞台プロデュース・演出・制作〉 
2019 「島守のうた」てだこホール小ホール 沖縄
2019 「三月の5日間 沖縄オリジナルクリエイション」 アルテ崎山 沖縄 
2016 「第32回琉球大学英語劇Annie」 サイライイン音楽堂 沖縄

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ki:長谷川清人 Kiyoto Hasegawa
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【経歴】
1995 香川県生まれ
2018 琉球大学 工学部 環境建設工学科 建築コース 卒業
2019 琉球大学 大学院 理工学研究科 環境建設工学専攻 環境計画学講座 2年在籍

【主な活動】
〈受賞歴〉
第21回 JIA沖縄 卒業設計作品選奨 佳作
卒業旅行フォトコンテスト【Luchta Challenge】 優秀賞

〈出展〉
せんだいデザインリーグ2018 卒業設計日本一決定戦
2018年度 日本建築学会 全国大学・高専卒業設計展示会

〈掲載〉
「せんだいデザインリーグ2018 卒業設計日本一決定戦 Official Book」 p-41

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uki
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大学の同期であるu(大久保卯月)とki(長谷川清人)によって構成されたアートユニット。
大学入学当初からの友人である2人は、ある日とあるカフェにて久しぶりに再会し、お互いの感性に興味を持つ。
その後、お互いに高まる制作意欲とアートへの挑戦を気に「uki」を結成した。

本作は「怪獣とは人間の想像力の膨大な蓄積である」という仮説に対する論理的思考と実験的フローを通したアプローチを試み、思考を排除した身体による物理的検証によって成立させた。

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