荒井 聖己

堆積都市
デジタルプリント

これは、東京都 千代田区 丸の内における建築の救済行為である。
丸の内の建築は奇妙な様相をしている。足元に20世紀初頭のネオ・バロックやモダニズムの、今となってはほとんど死滅した亡骸を履き、それがさも敬意や配慮の現れであるかのように毅然かつ堂々と鎮座している。解体されると同時に歴史の地層の中へと埋葬されたはずの建築は、現代の人々の景観配慮という名の我儘の下、歴史の墓場から掘り起こされ、ガラス張りの現代建築の足飾りとしてそこに縛り付けられている。この奇妙な建築が発生しなかった現代の丸の内の建築形態について、本提案は解答を示している。言わばこの建築は平行世界の東京都 千代田区 丸の内に存在し、平行世界の日本国民にとっては周知の建築である。この建築が存在する平行世界ではそのような変梃建築は存在しない。存在するのは、三菱が建築によって開発してきた丸の内の歴史を物理体として物語る、赤煉瓦の建築と百尺平線の軒並みと純粋な超高層である。その上には地表に対して水平方向に広がる執務空間が裾野を広げている。建築の尺度を逸脱した執務空間は、もはや空中に浮かぶ都市である。
都市は従労者のためのものではない。奇しくも丸の内は従労者のための都市のようであったが、本来はあらゆる人間のために存在する。この執務空間には公共に解放された場が存在し、丸の内に新たな都市要素を付与する。これによって丸の内は経済としての街から、観光・商業の街としての側面をも併せ持つ多様な都市となる。都市の遺物と化した、功績の具体であり象徴たるかつての丸の内建築はスクラップアンドビルドの毒牙を逃れ、新たな都市の下へと陳列されている。それはまるで建築の博物館のように。この建築における行動は都市行動そのものであり、建築に内包されたトラムは都市における交通インフラである。この上に、建築の機能的種別でいうところの「オフィス」が存在する。このオフィスは雲のようにかつての丸の内建築の上に覆いかぶさり、都市を堆積してゆく。いくらかつての丸の内に歴史やそれを形作った建築があろうとも、丸の内が日本国内における経済活動の要所であることに変わりはない。これはそれら2つの側面を持つ建築が互いに干渉し合わず、かつ同一の敷地上に存在することができる建築の解答である。

荒井 聖己 Masaki Arai

受賞
2014.9  第61回日本大学全国高等学校・建築設計競技 佳作
2015.3  東日本建築教育研究会賞
2015.3  東京都産業教育振興会賞
2016.9  建築新人戦2016 16選
2016.11 東京建築士会 住宅課題賞 入選
2017.11 第7回 JPM「夢の賃貸住宅」学生コンテスト 特別協賛会員賞
2018.4  第7回 E&G DESIGN 学生デザイン大賞 東海エクステリアフェア実行委員会賞

参加コンペティション
2014.8  第61回 日本大学全国高等学校・建築設計競技
2015.8  第7回 日本大学桜門建築会学生設計コンペティション
2016.4  第5回 E&G DESIGN 学生デザイン大賞
2016.8  第8回 建築新人戦2016
2016.8  第6回 JPM「夢の賃貸住宅」学生コンテスト
2017.5  第4回 甍賞学生アイディアコンペディション
2017.8  第7回 JPM「夢の賃貸住宅」学生コンテスト
2017.11  第15回 主張する「みせ」コンペティション
2018.3  第7回 E&G DESIGN 学生デザイン大賞
2019.4  日本造園学会 2019年全国大会 学生公開デザインコンペ

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