Title:不協和音
Material:ポリエステル毛糸、ポリエステル綿、紙箱
あんなこと、こんなこと、そんなこと…何だかいろいろ有ったような無かったような…考えてみても今は何も頭に浮かばない。何故だろう…今は何も思い出せない。夢から覚めた何とも不思議な感覚である。
今日もまたどこからともなく壊れかけの音色が流れている。埃を被った箱を叩いてみても電源を抜いてみてもやはり止まる気配はない。何だかんだと思いを巡らせながら四角い空間を見回して結局諦める。いつもと変わらない日常である。
毛糸を編みながらふと気づく。毛糸を編むことは何だか人生を紡いでいるかのようである。編んでは解いて試行錯誤を繰り返す。複雑に見えて実に単純な作業である。無限の模様と色の組み合わせは徐々に個性を形作る。
満ちた月の夜、薄雲かかる空、音の無い海。
歪んだ世界からまたひとり滑り落ちる。深い海の底へゆっくりと沈んでいく。あの日に観ていた映像も今は色褪せて消える。寄り添い合うようにそれらと静かに積み重なる。月に照らされた無数の泡は弾けて小気味よい音色を奏でる。
あちらこちらで銀色の目の玉が浮かび上がる。光り輝く眼を取り戻すとき逆再生する記憶の中で全てを吐き出し自らの浄化を始める。悪夢にうなされて目覚めるようにハッと息を吸い、そしてゆっくりと息を吐く。
怪しい獣の姿に身を変えた者たちが眠る世界…見上げるとそこには遥か彼方まで続いている。冷えた風が空へと舞い上がり足元の草花をたちまち揺らす。ふらつく体を支えながら陰る世界に背を向けて小さな一歩を踏み出す。
Artist:su-nosuke
2021年 MONSTER Exhibition 2021 入選